東京地方裁判所 昭和49年(ワ)6560号 判決 1976年1月27日
原告
伊藤徳太郎
被告
李光一
主文
一 被告は原告に対し、金五〇万九、九三四円およびうち金四四万九、九三四円に対する昭和四八年一〇月三日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを三分し、その一を原告の、その余を被告の負担とする。
四 この判決は、主文第一項に限り、仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求める裁判
一 原告
「被告は原告に対し、金八五万六、七八三円およびうち金七五万六、七八三円に対する昭和四八年一〇月三日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」
との判決並びに仮執行の宣言。
二 被告
「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」
との判決。
第二原告の請求の原因
一 事故の発生
1 日時 昭和四八年六月二六日午前一一時五五分頃
2 場所 東京都渋谷区神宮前四丁目三〇番六号先交差点路上
3 加害車 自動二輪車(練馬み一五〇号、以下「甲車」という。)
4 右運転者 被告李光一
5 被害車 事業用普通乗用自動車(品川五五あ四三二五号、以下「乙車」という。)
6 右運転者 原告 伊藤徳太郎
7 事故態様 被告李が赤色信号を無視して右交差点に進入し乙車に甲車を衝突させた。
二 責任原因
被告は、甲車を自己のため運行の用に供していたもので、赤色信号を無視して本件事故を発生されたから、自賠法三条、民法七〇九条により原告の蒙つた損害を賠償する義務がある。
三 損害
(一) 治療費 金三万五、五五三円
(二) 乙車修理代 金一三万〇、二三〇円
(三) 休業損害 金二九万一、〇〇〇円
原告は、個人タクシーの営業者であるが、本件事故のため、昭和四八年六月二六日から同年九月三〇日までの九七日間にわたり休業を余儀なくされ、右の期間一日金三、〇〇〇円の割合による損害を蒙つた。
(四) 慰藉料 金三〇万円
原告は、本件事故により頸椎捻挫の傷害を受け、事故発生の日である昭和四八年六月二六日から同年七月四日までマツサージ治療をなし、同月五日から同年一〇月三日までの九一日間に実日数五五日の通院治療を余儀なくされたので、右金額の精神的損害を蒙つた。
(五) 弁護士費用 金一〇万円
四 結論
よつて、原告は被告に対し前項(一)ないし(五)の損害金の合計額金八五万六、七八三円およびうち同項(五)の弁護士費用を除く金七五万六、七八三円に対する事故発生の後である昭和四八年一〇月三日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
第三被告の答弁および抗弁
一 答弁
請求原因一の1ないし6の事実は認める。同一の7の事実中、甲車と乙車が衝突したことは認め、その余の事実は否認する。
同二の事実のうち、被告が甲車を自己のため運行の用に供していたことは認め、その余の事実は否認する。
同三の事実はすべて不知。
二 抗弁
本件事故は、被告が甲車を運転し、渋谷区富ケ谷方面から国道二四六号線方面向け進行し、青色信号にしたがつて本件交差点に進入した直後、信号機の表示が青色から黄色に変つたところ、折柄、原告が乙車を運転し本件交差点内に右折のため停車していたが、このような場合、右折車両においては、交差点を直進中の甲車の進行を妨害してはならない義務があるのに、これを怠り、前方の安全を確認せず、急に右折を開始したため、被告は衝突を避けるべく突嗟に左側にハンドルを切るとともに急ブレーキをかけたが間に合わず、乙車の前部バンバー付近と甲車の前車輪とが衝突したものである。
したがつて、本件事故は、原告の一方的過失により発生させたものであつて、被告には何んら過失はない。
仮に、被告に何んらかの責任があるとすれば、原告には前記の過失があるから、損害額の算定につき、これを斟酌すべきである。
第四証拠〔略〕
理由
一 事故の発生
原告主張の日時、場所において、被告運転の甲車と原告運転の乙車とが衝突したことは当事者間に争いがない。
成立に争いのない甲第八、第九号証、証人田平繁の証言(一部措信しない部分を除く。)、原告本人尋問の結果(一部措信しない部分を除く。)および被告本人尋問の結果によれば、次の事実が認められる。
(一) 本件現場は、原宿駅方面から青山方面に向う車道幅員約二二メートルの歩車道区別のある見とおしのよいアスフアルト舗装道路と、渋谷方面から新宿方面に向う車道幅員約一四・六メートルの歩車道路区別のあるアスフアルト舗装道路との十字路交差点で、原宿駅方面から青山方面への道路については転回禁止と最高制限速度五〇キロメートルの交通規制がなされ、本件交差点の長さが約五一・三メートルとなり、事故当時、交通量は多く、路面は乾燥していた。
(二) 被告は、甲車を運転し、原宿駅方面から青山方面に向け時速四〇キロメートルないし五〇キロメートルの速度で中央線寄りの車線を進行し、対面の青色信号を本件交差点の手前約二〇メートルの地点において発見し、同交差点に進入した直後、黄色信号にかわつているのを見て約三・四メートル進行した地点で、対向車である原告運転の乙車が右折しようとしているのを約二六・二メートルの地点に発見し、ハンドルをやや左側に切りながら急ブレーキをかけたが間に合わず、乙車の左前部と甲車の前部を衝突させ、被告は衝突地点から約六メートル左前方に飛ばされた。
原告は、乙車を運転し、青山方面から原宿駅方面に向け進行して本件交差点の手前に至り、対面信号は青色であつたが、対向車があつたため、右折できずに横断歩道から約九・六メートル進行した中央線寄りに一時停車し、対向車の切れ目をぬつて他の車両に続いて発進し時速約二〇キロメートルの速度で右折しようとした際、対向して来る被告運転の甲車を前方約二七メートルの地点の本件交差点内に発見し、急ブレーキをかけたが間に合わず、甲車の前部と乙車の左前部を衝突させた。
甲、乙車の衝突当時の対面信号は、それぞれ赤色であつた。
以上の事実が認められ、証人田平繁の証言および原告本人尋問の結果中、甲車が本件交差点に進入した当時、その対面信号が赤色であつたとの供述部分は、前掲甲第九号証、被告本人尋問の結果に照らしにわかに措信できず、また、前掲甲第八号証中に、原告が甲車を発見した当時の乙車の速度が時速約一〇キロメートルであつたとの部分は、同号証中の乙車のスリツプ痕が二・七五メートルであることに照らし措信せず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。
二 責任原因
被告が甲車を自己のために運行の用に供していたものであることは当事者間に争いがない。
してみると、被告は、自賠法三条に基づき、本件事故により、原告の蒙つた損害を賠償する義務がある。
三 損害
(一) 治療費
成立に争いない甲第一、第二号証、第四号証、第五号証の一、二によれば、原告は、本件事故により、頸椎捻挫等の傷害を受け、事故発生の日である昭和四八年六月二六日から同年七月四日までの間マツサージ治療を受けて金六、六〇〇円を支出し、同月五日から同年一〇月三日までの間、立正佼成会附属佼成病院に実日数五五日通院加療し、治療費として社会保険適用外の自己負担分金二万四、七五三円、診断書、明細書料として金四、二〇〇円を要したことが認められ、右認定に反する証拠はない。
右金額の合計額金三万五、五五三円は、本件事故と相当因果関係にあるとみるのを相当とする。
(二) 乙車修理代
前掲甲第八号証、成立に争いのない甲第一〇号証および原告本人尋問の結果によれば、原告は、本件事故により、乙車の左前部を破損させ、その修理代として金一三万〇、二三〇円の支出を余儀なくされたことが認められ、右認定に反する証拠はない。
してみると、右金額は、本件事故と相当因果関係にあるとみるのを相当とする。
(三) 休業損害
原告本人尋問の結果により真正に成立したと認める甲第三号証および同尋問の結果によれば、原告は、事故発生の日である昭和四八年六月二六日から同年九月三〇日までの九七日間休業したことが認められ、成立に争いのない甲第六、第七号証によれば、原告は、個人タクシーを営業とし、昭和四七年度において年額金八五万四、〇七二円(一日当り約金二、三四〇円)の収益を得ていたことが認められ、他に右認定に反する証拠はない。
してみると、原告は、前認定の傷害および通院状況に照し、本件事故により、一日当り金二、三四〇円で九七日間分金二二万六、九八〇円の休業損害を蒙つたものというべきである。
(四) 慰藉料
原告の傷害の程度、通院状況等その他本件にあらわれた諸般の事情(事故態様を除く。)を斟酌すると、原告の精神的損害は、金二五万円をもつて慰藉されるべきが相当と認められる。
(五) 過失相殺
前認定の本件事故態様によれば、被告には対面の信号機の表示が交差点内で赤色にかわり、黄色燈火の信号が表示された時において本件交差点の停止位置に近接しているため安全に停止することができない場合でないのに、前方注視を怠り、信号機黄色燈火に注意しなかつたため、黄色から間もなく赤色にかわる時期に本件交差点に進入した前方不注視による安全運転義務違反と信号機の信号に従う義務を怠つた過失があるというべきであるが、原告においても、前方不注視による安全運転義務を怠つた過失があり、本件事故は、原、被告の過失の競合により発生させたものというべきところ、この過失割合は原告が三で、被告が七とみるのを相当とする。
そうすると、原告の前記損害の合計額金六四万二、七六三円に原告の三割の過失を斟酌するのが相当である。
(六) 弁護士費用
原告本人尋問の結果によれば、原告は本件訴訟の追行を原告代理人に委任し、勝訴の場合において金一〇万円の弁護士費を支払う旨約したことが認められるが、本件事案の難易、認容額等に照すと、原告が被告に対し請求し得る弁護士費用の額は、金六万円が相当である。
四 よつて、被告に対し原告が金五〇万九、九三四円およびうち弁護士費を除く金四四万九、九三四円に対する昭和四八年一〇月三日から民法所定の遅延損害金の支払を求める限度で理由があるので認容し、その余は失当であるから棄却することとし、訴訟費用については民訴法八九条、九二条、仮執行宣言について同法一九六条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 玉城征駟郎)